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骨盤臓器脱の治療法、メッシュ手術とは?リスクなどについても解説

「骨盤臓器脱になったから治療したい!」
「メッシュ手術ってなに?」
「どんなリスクがあるの?」
と考える方もいるのではないでしょうか。

骨盤臓器脱の治療法には、保存的治療と手術があります。
骨盤臓器脱の予防・改善にあたっては、保存的治療も重要ですが、根本から治すためには手術が必要です。

手術は大きくメッシュ手術と従来から行われているメッシュを使わない手術の2つに分けられます。

今回は、まず骨盤臓器脱の概要について解説します。また、骨盤臓器脱のメッシュ手術であるTVM手術のリスクや、そのほかの治療法についてもお伝えするので、臓器の脱出に悩んでいる方はぜひ参考にしてみてください。

骨盤臓器脱とは?

まずは、骨盤臓器脱の概要について解説していきます。
原因や症状についてです。

骨盤臓器脱とは

骨盤臓器脱とは、骨盤内にある子宮や膀胱、直腸などの位置が下がって、膣から外に出てくる病気です。

脱出する臓器は様々で、子宮や膀胱、直腸などがあります。脱出する臓器によって呼び方が異なり、子宮であれば「子宮脱」、膀胱であれば「膀胱瘤」と呼ばれます。これらを総称した名称が「骨盤臓器脱」です。

中高年の女性に多い病気ですが、日本ではあまり知られていないですよね。「恥ずかしいからそのままにしておこう」という方もいますが、違和感に悩んでいる方は早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることをおすすめします。

骨盤臓器脱の原因

骨盤臓器脱の原因は以下のとおりです。

  • ・出産
  • ・加齢
  • ・肥満
  • ・慢性の便秘
  • ・慢性の咳
  • ・重いものを頻繁に持ち上げる

 

通常、骨盤の底にある筋肉や靱帯が骨盤内の臓器を支えていますが、筋肉や靱帯がダメージを受けたり強度が低下したりすると骨盤臓器脱が起こります。

骨盤臓器脱の症状

骨盤臓器脱は徐々に進行していきます。
初期症状は以下のとおりです。

  • ・股に何かが挟まっている感じがする
  • ・膣からピンポン玉のようなものが出ている

 

最初は、重いものを持つなどお腹に力を入れたときに臓器が脱出したり、朝より午後に違和感を感じたりすることが多いです。

進行していくと以下のような症状が出てきます。

  • ・腰痛
  • ・重い感じがする
  • ・排尿・排便が難しくなる
  • ・便秘になる
  • ・トイレが近くなる
  • ・常に脱出した状態になる
  • ・下着にこすれて出血する

 

このように症状が進行していくため、軽い症状のうちに医療機関を受診し、早めに治療を始めた方が良いです。

メッシュ手術とは?

保存的治療を行っても効果がない場合は手術を行います。

骨盤臓器脱に対するメッシュ手術は2000年にフランスで開発されました。メッシュとは、人工素材を網目状に縫ったシートで、ヘルニア手術などで使われていました。改良が重ねられて、骨盤臓器脱の治療にも使われるようになっています。

骨盤臓器脱に対するメッシュを用いた補強療法(TVM手術)

ここからは、骨盤臓器脱におけるメッシュ手術のひとつであるTVM手術について解説していきます。

TVM手術は、2004年にフランスで開発され、日本でも2005年頃から行われている手術です。全身麻酔で脱出している臓器と膣の間にメッシュを入れて臓器を元の位置に戻します。

TVM手術には、以下2つの方法があります。

  • ・A-TVM手術:膣前方を支える手術
  • ・P-TVM手術:膣後方を支える手術

 

TVM手術は膀胱瘤、P-TVM手術は子宮脱、直腸瘤で行われます。

どちらも臓器を切除しないため患者様への負担が少なく、手術は短時間です。
再発や合併症のリスクも少ないといわれています。

TVM手術のリスク・合併症

術後のリスクが少ないといわれているTVM手術ですが、以下のような症状が生じることがあります。

  • ・びらん・メッシュ露出
  • ・痛み
  • ・出血
  • ・排尿状態の変化
  • ・周辺臓器の損傷

 

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

びらん・メッシュ露出

手術をした腟壁の部分がびらんになることもあります。びらんは手術から3〜6ヵ月後に生じる可能性がありますが、発生頻度は高くありません。メッシュの折れ曲がりや圧迫が慢性的にかかることで発生します。場合によってはメッシュを切除することもあります。

痛み

術後は以下の箇所に痛みを感じる可能性があります。

  • ・膣の痛み
  • ・殿部(尻)の痛み
  • ・股関節の痛み

 

通常は術後1ヶ月ぐらいで改善しますが、痛みが続く場合は鎮痛剤を使用します。性交渉は可能ですが、性交痛が起こることもあるでしょう。術後3ヶ月ぐらいまでは性交渉は控えます。

出血

発生頻度は多くありませんが、出血が起こる可能性もあります。症状が軽い場合は、ガーゼによる圧迫で止血できますが、状態によっては縫合や結紮による止血が必要です。

排尿状態の変化

術後に排尿状態が変わる可能性もあります。咳やくしゃみ、重いものを持ち上げたときなどに尿が漏れる腹圧性尿失禁になる可能性もあるでしょう。症状が軽い場合は薬で治療しますが、状態によってはTOT手術を行います。
TOT手術とは、人工繊維のテープを使って尿道の裏を支えて、尿失禁を改善する手術です。

周辺臓器の損傷

周囲の臓器が損傷する可能性もゼロではありませんが、発生頻度は高くありません。周囲の臓器とは、膀胱、直腸、尿管などです。損傷は手術中に判明することが多いですが、術後に判明することもあります。術後に判明した場合はすぐに修復を行います。

TVM手術以外の骨盤臓器脱の治療法

TVM手術以外の骨盤臓器脱の治療法

ここからは、TVM手術以外の骨盤臓器脱の治療法を紹介します。治療には、保存的治療と手術治療があります。

骨盤底筋訓練

骨盤底筋訓練は保存的治療の一つで、簡単にいうと骨盤底の筋肉を鍛える体操です。

臓器があまり下がっていない軽度な状態であれば、この体操で改善が見込めます。症状が進んでいる場合は効果があまり見込めませんが、続けることで改善する事例もあります。

骨盤底筋訓練には様々な方法がありますが、息を吐きながら骨盤底筋を5〜10秒締めて5〜10秒力を抜く流れを繰り返すのが一般的です。10回を1セットとし、1日に5セット程度行いましょう。

2〜3ヶ月を過ぎると効果が出てきます。間違ったやり方で行っている方も多いため、専門家の指導を受けて行うようにしましょう。

リングペッサリー

リングペッサリーは保存的治療の一つです。
ペッサリーといわれるリングを膣の中に入れて骨盤内の臓器が脱出するのを防ぎます。

2〜3ヶ月ごとに医師がリングを交換する方法と、状況に合わせて自身でリングの取り外しを行う方法があります。

異物であるリングを入れっぱなしにすると感染や出血、おりものの増加が生じる可能性があります。自身でこまめに取り外しを行えば膣への負担を減らせるでしょう。ただ、自分で管理する場合も医師の指導を受け、定期的な受診が必要です。

持病などで手術を受けられない方でも使えますが、根本的な治療ではないため、リングを取り出すと元の状態に戻ります。

腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)

TVM手術以外のメッシュ手術もあります。
腹腔鏡下仙骨膣固定術(ふくくうきょうかせんこつちつこていじゅつ)といわれる別名、LSC手術(LSC:Laparoscopic sacrocolpopexy)です。

まず、全身麻酔を使って子宮の一部分を摘出します。膣前壁と膀胱の間、膣後壁と直腸をメッシュで固定し、反対側のメッシュの先を仙骨に固定することで引き上げる手術です。

LSC手術には、以下のようなメリットがあります。

  • ・再発・合併症リスクが低い
  • ・メッシュが露出する可能性が低い
  • ・傷の痛みが少ない
  • ・術後の性交渉への影響が少ない

 

ただし、TVM手術と比べると手術時間が長くなります。LSC手術を行う際は、実績が豊富な医療機関を選ぶといいでしょう。

また、2020年4月1日からは、ロボットを使用する手術(RSC手術)が保険適用になりました。操作性・安全性の高いロボットと医師の技術を合わせることで効率的に手術ができます。

腟式子宮全摘術+腟壁形成術

「腟式子宮全摘術+腟壁形成術」は従来から行われている手術で、メッシュ手術ではありません。膣から子宮を摘出、膣壁を切除してゆるんだ筋膜を縫い合わせます。

子宮脱への効果が高い一方で、膀胱瘤や直腸瘤には効果が少ないです。また、再発率が3〜4割と高いことがデメリットといわれています。

腟閉鎖術

膀胱瘤や直腸瘤などにも効果的なのが腟閉鎖術です。腟閉鎖術もメッシュ手術ではありません。膣の前側と後側を縫い合わせて膣を閉鎖することで、臓器が下がってこないようにします。

手術時間が短く負担が少ないですが、術後の性交渉はできません。また、子宮癌の検査もできなくなります。

骨盤臓器脱の新しい医療機器フェミクッション

ここからは、骨盤臓器脱の新しい医療機器であるフェミクッションについて紹介します。

フェミクッションとは

フェミクッションは、クッション・ホルダー・サポーターで構成されている医療機器です。

臓器を体内に戻した状態で膣口をクッションで抑えるようにして使います。

クッションがずれて臓器が脱出しないように、サポーターについているベルトをしっかりと締めましょう。正しく使用すれば、日常生活で腹圧がかかる場面でも臓器が脱出せず、不快感を解消できます。

子宮脱、膀胱瘤、直腸瘤などすべての骨盤臓器脱に使える、三井メディカルジャパンが開発した商品です。

フェミクッションのメリット

フェミクッションのメリットは以下のとおりです。

  • ・リングペッサリーより違和感が少ない
  • ・下着のようなデザインなので周囲にバレない
  • ・医師の処方箋なくECサイトなどで購入できる

 

「リングペッサリーだと落ちやすい」「他の人にはバレたくない……」「違和感を持たずに生活したい」という方におすすめです。

骨盤臓器脱でお悩みの方は、ぜひフェミクッションをお試しください。

この記事の監修医師

永尾 光一

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

所属医療機関

この記事の執筆者

三井 桂子

株式会社三井メディカルジャパン 代表取締役

三井 桂子

株式会社三井メディカルジャパン 代表取締役。日本における女性疾患についての認知や理解度の低さに危機感をおぼえ、医療機器開発に着手。子宮脱をはじめとする骨盤臓器脱の治療に用いる「フェミクッション」を開発し、三井メディカルジャパンを通じて発売。

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