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骨盤臓器脱のロボット手術が保険適用になりました

多くの女性が悩んでいるといわれる骨盤臓器脱。根治できる方法は手術のみです。そんな中、ロボット支援下仙骨膣固定法が保険適用の手術となりました。

ロボット手術は、3Dカメラで術野をクリアに保ちながら、自由な指の動きで繊細な作業が可能な手術用のロボットを使うため、従来法よりも正確で安全に骨盤臓器脱の手術を行うことができます。

これまで自費治療の手術でしたが、保険適用となったことにより、より多くの患者さんが根治を目指してロボット手術を受けやすい状況になりました。

本記事では、骨盤臓器脱と保険適用になった手術について解説いたします。

骨盤臓器脱とは

骨盤臓器脱は、骨盤底筋やじん帯の力が弱くなり、本来骨盤内にある子宮や膀胱、尿道、小腸、直腸といった臓器が、膣から体外へ出てきてしまう女性特有の病気です。以前は性器脱と呼ばれていましたが、1つの臓器だけ単独で臓器脱が起こる場合は少ないため、総称して骨盤臓器脱と呼ばれています。

あまり知られていませんが、成人女性の3人に1人はかかるといわれており、大変身近な疾患であるといえるでしょう。しかし恥ずかしさから誰にも相談できず、一人で悩まれている女性が多い実情があります。

骨盤臓器脱は、「性器脱」「膣脱」ともよばれ、加齢や出産によって骨盤底筋が弱くなって起こります。骨盤底筋は、骨盤内の臓器を下からハンモックのように支える筋肉で、排泄においても重要な役割がある部位です。骨盤臓器脱になると、同時に尿漏れの症状もあらわれることがよくあります。

骨盤臓器脱の初期症状は、股に何かが挟まっているような異物感や、ボールのようなものが触れるような感覚といわれます。症状が進むと、朝はなんともなくても、夕方にかけて何かが下りてくるような違和感を覚えます。

重いものを持つ、排便でいきむなど、日常生活の中で腹圧をかけることによって臓器脱が起こるため、腹圧がかかる動作が困難になってくるでしょう。下腹部の違和感や出血、いつも残尿感があるなど、排泄が上手くできなくなったり、走ることができなくなったりして、通常の日常生活を送ることが難しくなってしまうのです。

骨盤臓器脱の治療に有効な薬はなく、根治を目指す場合は、手術しか方法がありません。

骨盤臓器脱のロボット手術が保険適用になりました

2020年4月1日より、骨盤臓器脱の手術の1つである腹腔鏡下仙骨膣固定術(ふくくうきょうかせんこつちつこていじゅつ)のロボット手術(Robot assisted sacrocolpopexy; RASC, RSC)が保険適用となりました。

仙骨膣固定術は、骨盤臓器脱の原因となっている弱った骨盤底筋を補強することにより、臓器脱を治療する手術方法です。膣を切らない腹腔鏡手術で行うことにより、術後の回復も早く、再発率も低くなっています。

仙骨膣固定術は1990年代から子宮脱の治療のために行われてきましたが、技術の進歩や腹腔鏡手術の器具の進歩により、現在はほぼすべての骨盤臓器脱の治療ができるようになっています。

保険適用となった手術は、ロボット支援下で行う仙骨膣固定術です。ロボット手術といっても、ロボットが自動的に手術を行うわけではなく、手術支援ロボットを使って医師が手術を行います。

ロボット手術のメリット

患者様にとってのロボット手術のメリットは、手術による傷が大変小さく済むことです。仙骨膣固定術では、骨盤の深い部分での縫合を行う必要があり、従来の開腹手術では大きな傷が残り、出血量も多くなっていました。

ロボット支援下仙骨膣固定手術では、腹部に1cm前後の長さで数か所切開するだけで済むため、痛みや術後の回復期間も従来よりも抑えることができ、身体への負担は少なくなります。

また、傷が小さいので出血量も少なくなり、持病のために抗凝固剤などを服薬していても、手術前後に休薬する必要がないケースもあります。これにより、持病がある場合でも手術が可能な方が増え、手術による休薬での、心臓や脳の合併症リスクに備えることができるようになりました。

仙骨膣固定術は、数ミリ単位の精度を求められる縫合を多用します。術者は、縫合の習熟を要するほか、術中は精神的にも体力的にも負担が大きいため、術者にとっては比較的難度の高い手術であるといえます。

ロボット手術は、狭い空間での繊細な動きを得意とし、仙骨膣固定術のような手術で真価を発揮します。手ブレや画面ブレがない良好な3D術野で、操作性がよいロボット手術は、経験の浅い術者であっても、短期間で習熟が可能という点もこの手術のメリットだといえるでしょう。

また、手術に使われるメッシュは手術で使う糸をつかって編まれたものなので、MRI検査や胃カメラの検査などが受けられなくなることはありません。

手術時間は2~3時間で、約1週間で退院できます。また退院後は、デスクワークや体に負担のない仕事はいつも通り行うことができるので、手術によって日常生活が極端に制限されることはありません。

ロボット手術のデメリット

ロボット手術のデメリットは、経腟メッシュ手術に比べて手術時間が長いということです。前述のように、細かい縫合を多用することから経験が浅い術者ほど時間を要する傾向にあります。

また、自費治療の手術だったため高額な治療方法でしたが、保険適用となったため、費用面でのデメリットは解消されたといえるでしょう。

手術以外の治療方法

骨盤臓器脱の治療は原則手術になりますが、持病があってどうしても手術を受けることができない方、まだ症状が軽く手術をするほどではないという方には、緩和治療を行います。

生活習慣の見直し

骨盤臓器脱のセルフケアでは、生活習慣の見直しが有効です。

具体的には、

  • ・骨盤底筋を鍛える(骨盤底筋体操やウォーキングなど)
  • ・便秘、慢性的なせきなどを改善・治療する
  • ・肥満を改善する

 

などが挙げられます。

骨盤底筋体操は、肛門と膣をゆっくり締めてキープし、また緩めるという方法です。家事をしながらでも行うことができ、重症でない場合は数か月で効果を実感できるでしょう。

便秘や慢性的なせきは、腹圧をなるべくかけないためにも早期に改善・治療をする必要があります。肥満も、自分の体重で膣口に負荷がかかってしまうので、ダイエットなどで負担を軽減するようにつとめましょう。

ペッサリー(リングペッサリー)

手術をせずに臓器脱の症状を和らげる方法の1つに、ペッサリー療法があります。ドーナツ状のペッサリー(リングペッサリー)と呼ばれる人工物を膣内に挿入し、下から子宮を支える方法です。

ペッサリーは、2~3か月に一度病院で外して洗浄し、また元に戻す必要があります。そのため定期的に通院をしなくてはいけません。

さらに、個人差がありますが、ペッサリーを膣内に挿入することによる痛みや違和感、出血などの症状がある場合もあり、体内に異物を入れることを希望しない方には少しハードルが高い方法かもしれません。

フェミクッション

ペッサリーが体に適さない方、体内に異物を入れることを希望されない方には、別の緩和療法としてフェミクッションがおすすめです。

骨盤臓器脱の医療機器フェミクッション

骨盤臓器脱の医療機器フェミクッション

フェミクッションは、膣内に挿入せず、身体の外側から臓器を支えて骨盤内に保持する医療機器です。骨盤臓器脱で悩む女性が、一人でも多く通常の日常生活を送れるようにと開発されました。

フェミクッションは、クッション・ホルダー・サポーターを3点セットで使用します。体内に異物を入れることなく、医療用シリコーンゴム100%の特殊なクッションで、膣口からの臓器をやさしく受け止め骨盤内に保持することができます。

ご自身で着脱ができ、毎日自宅で洗って衛生的に使用することができるのはもちろん、洗浄のための定期的な通院も必要ないので、気軽に使用することができます。

骨盤臓器脱は、恥ずかしい、人に相談しにくいと悩んでいる方が多いので、外観上ふつうの下着と同じように見えるように配慮され、他人から気づかれにくいデザインになっています。

フェミクッションは、きちんとした手順で装着すれば、運動したり自転車に乗ったりするなどの日常生活で外れてしまうことはありません。身体的にも、精神的にも負担が少ない方法で、臓器脱を防ぐことができます。

手術はしたくない方、手術をするまでの期間にペッサリーを外す方、手術が受けられない方でも、安心して使用することができます。

骨盤臓器脱の改善には、弱った骨盤底筋を鍛えることが有効です。特別なことはしなくても、ウォーキングで十分トレーニングになります。フェミクッションを使用すれば、ウォーキングも行うことができるようになるため、ご自身で症状を改善していくことも可能です。

フェミクッションは、骨盤臓器脱の緩和ケアとして気軽に始められる医療機器です。骨盤臓器脱でお悩みの方は、まず一度フェミクッションをお試しください。

この記事の監修医師

永尾 光一

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

所属医療機関

この記事の執筆者

三井 桂子

株式会社三井メディカルジャパン 代表取締役

三井 桂子

株式会社三井メディカルジャパン 代表取締役。日本における女性疾患についての認知や理解度の低さに危機感をおぼえ、医療機器開発に着手。子宮脱をはじめとする骨盤臓器脱の治療に用いる「フェミクッション」を開発し、三井メディカルジャパンを通じて発売。

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