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膀胱瘤は手術しないと治らない?治療方法を解説

膀胱瘤(ぼうこうりゅう)と聞くと、ちょっと怖いイメージがあるのではないでしょうか。
自分はもしかしたら膀胱瘤かもしれない、どうすれば…と考えてしまうと気分が落ち込みますよね。恥ずかしくて、どこに相談すればいいかもわからない、という方も多いとよく聞きます。

でも大丈夫です。膀胱瘤は、直接命にかかわるような病気ではありませんし、ものすごく治療が難しい病気でもありません。膀胱瘤のことを正しく知って、正しく治療し、再発の予防をしましょう。

 

膀胱瘤(ぼうこうりゅう)とは?

膀胱瘤とは、骨盤臓器脱の一つで、「骨盤底のヘルニア」とも呼ばれます。つまり、本来骨盤内にあるべき膀胱、子宮、直腸、膣が膣口から出てきてしまう病気が骨盤臓器脱です。このうち、膀胱が出てきてしまう症状を膀胱瘤といいます。

中高年の女性特有の病気で、複数回の出産経験のある方が発症する確率が高いと言われています。決して珍しい病気ではありません。アメリカの調査では、80歳まで生きた女性のうち、約一割は尿失禁や骨盤臓器脱など、骨盤底に関する手術を受けるとの報告があります。

発症する原因は、加齢による女性ホルモンの低下、お産、便秘体質、肥満などがあります。骨盤内の臓器を支える筋肉が衰えることによって引き起こされる症状です。

膀胱瘤は手術しないと治らない? ー治療方法まとめー

膀胱瘤の治療には、いくつかの方法があります。症状が軽度なのか重度なのかによって取る治療法が変わってきますので、医師としっかり相談して、自分の状態を知り、最適な治療を受けましょう。

一つ目は、自分で骨盤底の筋力を鍛える治療法です。比較的軽症の方ならこちらの治療法で症状を改善できる場合があります。

筋力が衰えることによって膀胱瘤が出てきてしまっているわけですから、意識的に筋力を鍛えることが治療に繋がります。呼吸を整えながら肛門・膣を引き締めていくトレーニングです。

即効性は無く、1か月~3か月のトレーニングが必要ですが、手術のような費用や身体への負担はかかりませんし、いつでもおうちで気軽に行えます。

二つ目は、医療器具を使う方法です。ペッサリーリング(リングペッサリーとも)という器具を膣に挿入するのが一般的で、軽度から中度の症状の方に使われます。

もう一つ、「フェミクッション」という医療器具もあります。体内に異物を挿入するのではなく、膣口にクッションをあててサポーターで固定するタイプのものです。それぞれの詳細は、下記の「保存的治療法について」にて、説明いたします。

三つめは手術です。基本的に、膀胱瘤における手術とは、症状が強く、上の二つでは改善できない方におこなわれます。内容については次項で説明いたします。

 

膀胱瘤の手術について

膀胱瘤を根本的に、かつ確実に治療するには、手術をするしかありません。

膀胱瘤が進行すると残尿、尿路感染症などを引き起こすことがあり、こういった症状を根治するには手術をおこなうしかないと考えていたほうがいいでしょう。

手術には多くの術式がありますが、ここでは一部を紹介します。

従来法

婦人科で昔からよく行われている術式では、膣から出てきている子宮を摘出し、前と後ろの膣の壁を切り取って縫い縮めます。弱っている組織を縫い合わせるため、再発のリスクが高くなります。

経腟メッシュ手術(TVM手術)

下垂した臓器を、メッシュでハンモックのように支えて補強する手術です。術中の出血や感染、メッシュの露出が問題となりアメリカの機関(FDA)が強く警告を発した術式で、欧米では行われなくなりました。日本では独自の発展を遂げ、安全な方法で多くの医療機関で行われています。

腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)

現在主流となっている術式です。お腹に小さな穴を開けて、腹腔鏡下でメッシュを用いて手術をします。このお腹の傷は、時間が経てばほぼ目立たなくなりますので、身体に傷が残ることを心配する必要はありません。

ロボット支援下仙骨膣固定術(RSC/RASC)

また、このLSCを手術用ロボットでおこなう病院も増えてきました。「ロボット支援下仙骨膣固定術(RSC/RASC)」といいます。2020年より保険適用となり、選択肢に入れやすくなりました。人間が腹腔鏡下でおこなうよりも、より細かな動きに対応できるようになりました。

 

膀胱瘤の保存的治療法について

手術ではなく保存的治療法には、骨盤底筋体操やペッサリー、フェミクッションの利用などがあります。ここでは、ペッサリーとフェミクッションについて説明しましょう。

ペッサリー

リング状などのペッサリーを膣内に挿入することによって、膣から出てきた臓器を膣内に収める治療法です。定期的に通院して医師に交換してもらう方法と、自分で脱着する方法があります。

自分で脱着するのは怖いし難しいのでは、と思う方もいらっしゃるでしょうが、病院によっては専門の人が自己脱着を指導してくれるところもあります。感染症などのリスクも下がります。

ペッサリーを挿入すると、膀胱瘤による不快な症状を軽減できますし、持病のために手術を受けられない方でも治療できるというメリットがありますが、一方でデメリットもあります。

おりものが増えたり、膣内に炎症が出来たり、異物を入れることで痛みを感じたり出血したりすることなどが例として挙げられます。治療を受ける前に、医師からしっかりとした説明を受けましょう。

フェミクッション

フェミクッションは、身体への負担が少なく自分で好きなタイミングで脱着できる、下着のようなタイプの医療機器です。

シリコンゴム製のクッションを膣口にあて、腹圧がかかったり動いたりしても臓器が出てこないようにサポートします。処方箋不要で購入できる医療機器で、骨盤臓器脱に悩む多くの患者様にご利用いただいています。

膣内の炎症やびらんなど、ペッサリーの使用で懸念される合併症のリスクがほとんどありません。

ただし、上述したように、症状が進行すると手術しか治る方法はありません。そういった意味でも、受診はなるべく早くにということが求められます。

 

膀胱瘤の治療方法についてよくある質問

膀胱瘤の治療方法についてよくある質問

Q.日常生活に支障がなくても治療は受けるべきでしょうか?

A.生活に支障が無いなら、急いで治療する必要はありません。ただ、一度下がってしまった臓器は自然には戻りませんので、早めの治療が望ましいです。

Q.予防方法はありますか?

A.骨盤底の筋力を鍛えることで予防は可能です。また、便秘をしない、重いものを持たない、力を入れすぎない、お腹に負荷をかけないといったことも予防につながります。肥満も症状に繋がるので、適度なダイエットも効果的です。

Q.どんな症状を感じたら受診すべきですか?

A.主な症状には以下のようなものがあります。

・座ると何かが入っていく感じがし、立つと下がった感じがする
・陰部になにか挟まったような感覚(卵の上に乗っているような感覚、と表現する方が多いです)
・腰痛
・下腹部がなにかに引っ張られているような感覚
・股になにかが触れる
・歩くとき、股が擦れて痛い
・排尿・排便がしづらい
・陰部の痛み・痒みなどの不快感
・性交時の不快感

上記のような症状が出て、生活に支障がある場合は早めに受診することをおすすめします。
なお、午前中よりも午後に症状が強くでる場合が多いです。

Q.病院ではどんな検査をしますか?

A.問診と内診をおこないます。必要に応じてエコーやMRI検査、尿検査もおこないます。検査は痛みが伴うものではありませんので、ご安心ください。

Q.放っておいたらどうなりますか?

A.排尿困難・出血などが症状として出てきます。これらをさらに放置すると、感染症にかかってしまう危険があります。

患部の特性から、受診をためらってしまう方も多い膀胱瘤ですが、放っておくと上記のように感染症に繋がります。

決して恥ずかしいものではありませんし、治療が難しい病気でもありません。症状がある方は一人で悩まず、ぜひ一度専門家に相談してみましょう。

この記事の監修医師

永尾 光一

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

所属医療機関

この記事の執筆者

三井 桂子

株式会社三井メディカルジャパン 代表取締役

三井 桂子

株式会社三井メディカルジャパン 代表取締役。日本における女性疾患についての認知や理解度の低さに危機感をおぼえ、医療機器開発に着手。子宮脱をはじめとする骨盤臓器脱の治療に用いる「フェミクッション」を開発し、三井メディカルジャパンを通じて発売。

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