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このページの監修医師
出産経験のある女性の約4～5割に発症すると言われる「骨盤臓器脱」。なんとなく以前から下腹部に違和感があるものの、誰に相談していいかわからず、我慢しながら生活しているという方も多いかもしれません。
今回は、骨盤臓器脱とはどのような症状で、どういった治療があるのかを詳しくお伝えしていきます。症状や正しい治療法を知り、改善につなげていきましょう。
目次
骨盤臓器脱の初期症状は無症状や軽度のことが多いですが、次のような違和感があって驚いた方もいるのではないでしょうか。
「股から何かでてきている」「股に何かが触れる」など、入浴時に気づいて驚く方もいるようです。股の間に何か挟まったような違和感や、ピンポン玉のようなものに触れる感じがあります。
長時間立った姿勢でいる時、午後や夕方遅い時間になると股のあたりに何か下がってくる感じが強くなります。
骨盤付近が重苦しく、ご自身でも子宮が下がった感覚があります。下腹部や陰部の違和感・異物感、何かが下りてくる感じ、または重くて引っ張られるような感じです。
自覚症状がないので気づかない方も多く、婦人科健診で指摘される場合もあるようです。排尿や排便に支障が出てくることもあります。
前述したような症状があるようなら、それは骨盤臓器脱の可能性があります。
違和感があるにもかかわらず放置していると、しだいに悪化して以下のような症状が出てきます。
骨盤臓器脱は、骨盤内の臓器の下垂・脱出といった病気です。この際、下垂・脱出する臓器ごとに、子宮脱・膀胱瘤・直腸瘤・小腸瘤などと呼ばれ、臓器が単独または複数同時に出てきてしまう場合があります。
通常、骨盤の底では靭帯・筋膜・筋肉などが臓器を支えています。しかし、それらの支持組織が弱くなると、骨盤内臓器が膣内に下垂し、更に進むと膣口から外に脱出します。尿道や直腸の角度が変わり、排尿障害や排便障害が起こるようになります。
膀胱が脱出することで、トイレが近い・残尿感・排尿しづらいといった膀胱瘤の症状が現れます。また、後ろ側の直腸が脱出して直腸瘤ができると便秘になりやすくなります。
子宮がさらに下がって一部がはみ出すと部分子宮脱となり、股の間に何かが当たる症状があります。そして、子宮が完全にはみ出した状態が完全子宮脱です。
骨盤底筋が弱くなると発症し、近年多くの女性が悩んでいます。更年期を過ぎ、出産経験のある女性の約半数が、いずれかの骨盤臓器脱の症状があるといわれます。お産の回数が多い方、大きな赤ちゃんを出産した方にも多くみられます。
出産以外では、次のように慢性的に腹圧がかかることにより骨盤臓器脱の原因になります。
女性の骨盤は臓器が出てこないように骨盤底筋で支えられているのですが、出産・分娩・閉経・肥満・加齢で骨盤底筋がゆるむことで症状が出るため、老化現象の1つともいわれます。若いうちであれば、産後など一時的に子宮が下がる場合もありますが戻る可能性も高くなります。
決して珍しい病気というわけではありませんが、軽い症状が多く、気になっていても受診されない方が多いようです。
軽症であれば、骨盤底筋体操で尿道・膣・肛門を引き締めて様子を見ます。しかし、重症化してしまった場合は、日常生活に支障が出るため治療をしなければなりません。
骨盤臓器脱の治療方法は、手術療法と保存的療法があるのでそれぞれの治療法を説明します。完治するためには手術が必要ですが、手術を望まない方には症状を和らげる保存的療法として、フェミクッションなどの医療機器を使用することが多いです。
ポリプロピレン・メッシュで修復・補強する経腟メッシュ手術（TVM）や腹腔鏡下仙骨腟固定術（LSC）が行われます。
経腟メッシュ手術（TVM）は、ポリプロピレン・メッシュを膀胱と膣の間に埋め込み、膣中隔の代わりにさせるため再発率が少ないです。しかし、重篤な合併症が相次いだため、2011年に米国のFDAが警告し、欧米では行われなくなりました。
腹腔鏡下仙骨腟固定術（LSC）は、メッシュに関わる合併症がほとんどなく、傷口も小さく出血もほとんどありません。有効性が高く体への負担も少ない手術です。
膣を閉じる膣閉鎖術、膣壁を縫縮して脱出した子宮を摘出する手術などもあります。ご自身の組織を用いて修復する「膣式単純子宮全的術」または「膣壁形成術」は、子宮を全摘出し、膣中隔を膣内に引き上げて修復・再建します。しかし、修復後の再発率が高いのが欠点です。
骨盤臓器脱は非常に専門的な手術になりますが、子宮を摘出する以外にも多くの手術方法があります。骨盤臓器脱専門の施設などで相談しましょう。
まず、生活の見直しをすることが大切です。骨盤底筋体操の継続や便秘の解消、肥満であれば減量を心がけましょう。
骨盤臓器脱を薬で治療することはできませんが、症状を緩和させることは可能です。また、リングペッサリーやフェミクッションなどの医療機器を使用し、骨盤臓器脱を防ぐ対症療法をご紹介します。
ドーナツ型のリングペッサリーを膣内に入れ、臓器の下垂を止めます。定期的に膣内の洗浄やリングペッサリーの交換を行うために、約3カ月ごとの通院をしなくてはなりません。通院しないで放置すると、びらんや潰瘍、直腸に穴があくこともあります。
また、サイズが合わず抜けてしまう、違和感や性交渉困難、おりものの増加を感じる場合もあります。
フェミクッションは、骨盤臓器脱の治療と予防を目的としたサポーター下着です。はみ出た臓器を押し戻してフェミクッションをはめます。フェミクッションをはずすと臓器が出てくるので、応急的な処置となりますが、外出時に便利で自己管理できる点や、高齢で手術が難しい場合にもおすすめの方法です。
独自に開発されたクッション・ホルダー・サポーターを組み合わせて、必要な時に下着感覚で使用できますし、毎日洗濯できるので清潔に保てます。もちろん、身体に負担をかけないように配慮されているので、安心して使用できるでしょう。
骨盤臓器脱は自然に治る病気ではないので、初期症状で痛みを感じない場合も、重症化する前に何らかの治療を行うことをおすすめします。
まずは、症状が軽いうちに生活習慣を見直し、新しい治療法として考えられたフェミクッションで、骨盤臓器脱の予防や治療を取り入れてみると良いでしょう。
命に関わる重い病気ではなくデリケートな問題なため、悩んでいてもなかなか相談できず不快な状態を我慢して生活している方もいるかもしれません。快適に過ごすために、ぜひ一度専門家にご相談ください。
永尾 光一 先生
東邦大学 医学部教授（泌尿器科学講座）
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建（泌尿器科・形成外科）センター長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する（2つの基本領域専門医を取得）。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
所属医療機関
株式会社三井メディカルジャパン 代表取締役
三井 桂子
株式会社三井メディカルジャパン 代表取締役。日本における女性疾患についての認知や理解度の低さに危機感をおぼえ、医療機器開発に着手。子宮脱をはじめとする骨盤臓器脱の治療に用いる「フェミクッション」を開発し、三井メディカルジャパンを通じて発売。
