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骨盤臓器脱の主な症状:当てはまったら要注意!

骨盤臓器脱は、骨盤内の臓器(子宮・膀胱・直腸など)が下垂し、膣から脱出してしまう病気です。

膣から何かが下がってくるような違和感や、陰部にピンポン玉のようなものが触れる、排尿・排便障害などさまざまな症状がみられます。

本記事では「もしかして、骨盤臓器脱かも?」と思っている方に向けて、骨盤臓器脱の主な症状や治療法をまとめました。

症状のチェックリストも用意しているため、当てはまることが多ければ、早めに医療機関へ出向きましょう。

 

骨盤臓器脱とは

骨盤臓器脱とは、骨盤内の臓器が下垂・脱出する、女性に多い病気です。

骨盤内には子宮・膀胱・直腸といった臓器がおさまっており、骨盤底筋という骨盤の底にある筋肉によって支えられています。しかし骨盤底筋がゆるんだり傷ついたりすると、臓器を支えきれなくなり、臓器が膣口から外に下がってしまうことで骨盤臓器脱を発症します。

従来は性器脱といわれており、脱出する臓器の名称ごとに子宮脱・膀胱瘤・尿道瘤・直腸瘤・小腸瘤などと呼ばれており、それを総称して骨盤臓器脱と言います。臓器は単独で脱出することもあれば、複数が脱出するケースもあります。

骨盤臓器脱とは

骨盤臓器脱の主な原因は、以下のとおりです。

●出産(自然分娩、難産、多産)
●加齢(女性ホルモンの減少)
●腹圧をかける習慣(慢性的な咳・くしゃみ・便秘、肥満、重い荷物を持つ仕事など)

とくに自然分娩は骨盤底筋にダメージを与えやすく、お産の回数が多いほど骨盤臓器脱のリスクは高まります。

ただし出産後にすぐ骨盤臓器脱を発症するケースは少なく、更年期(閉経以降)に発症することが多いようです。その理由は、骨盤底筋の働きを高める女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が、更年期に大幅に減少するからです。

そのため骨盤臓器脱は、多産の方が更年期に発症しやすいと言われています。

また、腹圧をかけると骨盤底筋の負担が大きくなるため、慢性的な咳・くしゃみ・便秘や、日頃から重い荷物を持つ仕事、長時間の立ち仕事なども、骨盤臓器脱を招く原因です。

 

骨盤臓器脱の初期症状

骨盤臓器脱の初期は、臓器が膣口のぎりぎりにとどまっている状態で、まだ完全に脱出していません。この状態の場合、膣口に何かが下がってくるような「下垂感(かすいかん)」がある人が多いと言われています。

また、靭帯が引っ張られることにより下腹部痛を感じたり、陰部にピンポン玉のような丸いものが触れたりすることもあります。初期症状は、以下のような状況で気づくことが多いようです。

●お風呂場でしゃがんで陰部を洗うとき
●トイレで排尿・排便後に紙で拭くとき
●重い荷物を持ったとき
●腹圧がかかったとき

骨盤臓器脱の初期症状

 

骨盤臓器脱の症状が進行すると

臓器は重力によって下がってくるので、放置しているとどんどん下がっていき、症状が進行すると、臓器が膣口の外へ脱出してしまいます。

軽症の場合は常に脱出しておらず、腹圧がかかったときや、長時間立ったり歩いたりした後に脱出する程度です。「午前中は気にならないけれど、夕方になったら違和感がある」というケースがあります。その際、以下のような症状を感じます。

●椅子に座ると、ボールの上に座っているような違和感がある
●歩行時に、何かが股の間に挟まっているような感じがする
●下がってきたものを押しても戻りにくい

重度の場合は臓器が常に脱出した状態になり、臓器が下着に擦れて出血することも。痛みから歩行が困難になり、外出しにくくなるなど、日常生活に支障をきたします。

 

骨盤臓器脱のその他症状

その他の症状として、以下のような排尿・排便時のトラブルが挙げられます。

 

排尿困難

股の間に蓋がされているような感覚で、尿が出にくい。

 

頻尿

トイレが近い、トイレの回数が多い、トイレに行ったばかりなのにすぐ行きたくなる。

 

切迫性尿失禁

急に尿がしたくなり、我慢できず漏らしてしまう。急いでトイレに駆け込みたくなり、車の運転中や電車などに乗っているときに困る症状です。

 

腹圧性尿失禁

腹圧がかかると尿がもれてしまう症状。咳やくしゃみをしたとき、重い荷物を持ち上げたとき、走る・ジャンプするといった運動をしたときなどが挙げられます。

 

排便困難

便を出そうといきんでも、何かが下がってきて便を出しにくい、排便後も便が残っている感じがしてスッキリしない、排便後に下着を汚してしまうなど。

症状が悪化すると、脱出した臓器を押し込みながらでないと、排尿・排便ができなくなることもあり、トイレに行く度に手を汚してしまいます。

 

チェックリスト:この症状に当てはまったら要注意

骨盤臓器脱にみられる主な症状を、チェックリストにまとめました。ご自身の症状と照らし合わせてチェックしてみてください。

✓膣や下腹部に、何かが下がってくる感じ(下垂感)がある
骨盤内の臓器が下りてきている可能性があります。まだ膣の外には脱出していない段階です。

✓膣や下腹部に、重い感じや引っ張られるような痛みがある
子宮はじん帯で支えられているため、子宮が下垂することによりじん帯が引っ張られ下腹部に違和感や痛みを生じる場合があります。

✓陰部にピンポン玉のような丸いものが触れる
膣粘膜に包まれて出てきた骨盤内の臓器が考えられます。ヌルッとしたものや、コリコリした物が手に触れるなど、トイレやお風呂で気付く人が多いです。

✓椅子に座ると、ボールの上に座っているような違和感がある
臓器が下垂または脱出していることからくる違和感です。また、座ると何かが身体に入っていく、などの感覚があります。

✓歩行時に、何かが股の間に挟まっているような感じがする
下りてきた臓器が内腿に擦れるなどして生じる違和感です。症状が進行しています。

✓陰部に下がってきたものを押しても戻りにくい
症状が進行すると戻りにくくなります。

✓下着に擦れて出血することがある
すでに臓器が脱出しているので、膣粘膜が下着に擦れて、痛みが生じるだけでなく出血することがあります。また、長期間にわたり体外に出た状態でいると、膣粘膜が乾燥して慢性炎症を起こすことがあります。

✓おりものの量が増えた
骨盤臓器脱の症状の一つです。ペッサリーでも増えます。

✓尿を出すのに時間がかかる
股の間に何かが挟まり、ふたをされたような感じになって排尿がしづらくなります。この時、膀胱が下がった状態のため、尿道も折れ曲がっています。

✓トイレに行ったばかりなのに、すぐトイレに行きたくなる
頻尿も骨盤臓器脱の症状の一つです。排尿しきれずに、残尿があるためです。

✓何度もトイレに行くが、少ししか出ない
膀胱瘤のため、トイレで排尿できず、排尿困難という状態です。常に膀胱内におしっこが溜まっているので、炎症を起こして膀胱炎にもなりやすくなることがあります。
膀胱炎の可能性もありますが、膀胱炎は膀胱瘤の症状のひとつです。

✓いつも残尿感がある
臓器が下垂していることにより、残尿感が生じるなどの排尿障害となります。

✓急な強い尿意でトイレにかけこんだり、漏らしたりする
切迫性尿失禁といって、骨盤臓器脱が関係している場合があります。

✓膀胱炎を繰り返している
膀胱瘤が原因で膀胱炎になることがあります。特に繰り返す場合は、膀胱瘤の可能性もあります。

✓いきんでも便が出にくい
直腸瘤の可能性があります。直腸瘤は、直腸の前壁が膣側に落ち込んでいる状態なので便が出にくくなります。

✓いつも残便感がある
直腸瘤の可能性があります。膣側に落ち込んだ直腸瘤に便が残ることで残便感がでます。

✓就寝時や午前中は何も起きないが、午後になると上記のような違和感が出てくる
骨盤内の臓器は、重力でも下垂します。朝起きてすぐよりも、夕方や夜に症状が強くでてきます。

該当するものが多い場合、骨盤臓器脱の疑いが高いでしょう。骨盤臓器脱は産婦人科や泌尿器科、もしくはウロギネ外来で診てもらえますので、早めに受診し治療を受けてください。

ちなみにウロギネ外来とは、女性特有の病、主に骨盤臓器脱と腹圧性尿失禁を対象とした女性専門外来。「ウロロジー:urology 泌尿器科」と「ギネコロジー:gynecology 産婦人科」という言葉の造語です。

 

骨盤臓器脱の治療

骨盤臓器脱の治療は、手術をしない保存的治療と、手術をする外科的治療に分かれます。

軽度の場合は保存的治療で、医療機器を用いて臓器を骨盤内に戻す、骨盤底筋を鍛えて症状を緩和させる、といった治療が可能です。重度の場合や根本的に改善したい場合は、手術が行われます。

 

保存的治療(手術をしない場合)

骨盤底筋訓練
ゆるんだ骨盤底筋を鍛える運動です。軽度の場合は症状を緩和させる効果があります。基本的な手順は以下のとおりです。詳しくは医師や専門家の指示に従ってください。

➀お腹に力を入れないように意識しながら、肛門・尿道・膣全体を数秒間締める
➁力を抜いてリラックスする
➂「締める→力を抜く」を、10回程度繰り返す

上記の運動を2~3ヶ月毎日継続することで、効果が期待できます。

ペッサリー
脱出した臓器を、ペッサリーという医療器具で人工的に膣内に戻す方法です。ペッサリーの形状にはさまざまなタイプがありますが、リング型が一般的です。医師が定期交換する方法と、使用者自身が着脱する方法があります。

医師による定期交換は、自分で着脱する手間はかからないものの、定期的な通院が必須です。また、つけっぱなしの状態が続くことで、膣内の粘膜にダメージが加わりやすく、炎症を起こす・おりものが増えるなどの副作用があります。

その一方で自己着脱の場合は、付けない時間帯を自分で設けられるため、上記のような副作用が起こりにくいでしょう。通院は必要ですが、医師による定期交換に比べると通院回数が少ないのがメリットです。

フェミクッション
フェミクッションは、骨盤臓器脱で辛い思いをしている患者の期待に応える形で誕生した、医療機器下着です。装着してすぐに症状を和らげられることや、腹圧をかけても臓器が脱出しにくい点がメリット。子宮脱、膀胱瘤、直腸瘤、小腸瘤などすべての骨盤臓器脱に使えます。

下垂した臓器が正常な位置に戻っている状態で膣口をクッションで支え、ホルダーとサポーターで押し上げることで脱出を防止する仕組みです。クッションには体への負担が少ないシリコーンゴムを100%使用しており、内部のスポンジがクッションの役割をすることで、振動を吸収して臓器をやさしく支えます。

人それぞれの脱出した臓器の大きさに合わせられるよう、3種類のサイズ(S・M・L)を展開しています。

 

外科的治療(手術をする場合)

手術は、症状や希望ごとに複数の種類があります。

従来法
子宮を摘出し、膣を縫い縮める手術です。

経腟メッシュ手術(TVM)
メッシュという人工素材を膣壁から挿入し、下垂した臓器をハンモック状に支える方法です。

LSC(腹腔鏡下仙骨膣固定術)
腹部に5mm~1.5cmほどの小さな穴を4ヶ所あけ、そちらから腹腔鏡などを使用して治療します。4時間程度かかる手術ですが、術後の回復は比較的スムーズです。臓器が脱出することによる不快感に限らず、排尿・排便困難といった症状の改善にも効果を発揮します。

RSC(ロボット支援下仙骨膣固定術)
医師が、手術支援ロボットを操作して行う手術です。ロボットには、人間の手よりも自由に動くアームや3Dカメラが内蔵されており、手振れ防止・視野拡大などにつながります。仙骨腟固定術はミリ単位以下の繊細な縫合技術が求められるので、難易度の高い治療です。しかしこの治療が誕生したことで、より安全で正確な処置を施せるようになりました。

膣式子宮全摘・腟断端固定術
重度の子宮脱の場合に行われる手術。脱出している子宮を摘出し、その後膣が下がることを防ぐために、膣の一番上の部分を骨盤のじん帯に縫い留めます。

膣閉鎖術
下垂している膣を縫合して閉鎖する手術です。主に寝たきりの人や、パートナーのいない女性に行なわれます。

 

まとめ

骨盤臓器脱は、骨盤内の臓器が膣口へ下垂・脱出してしまう病気の総称です。

初期症状として下垂感、進行すると排尿・排便障害や歩行障害、臓器が下着に擦れて出血するなど、日常生活の質を著しく低下させます。

骨盤臓器脱は決して珍しい病気ではありません。しかし羞恥心から医療機関を受診せず、何年も我慢していて、その結果症状が悪化してしまうケースがあります。骨盤臓器脱は自然に治る病気ではないため、チェックリストの該当項目が多ければ、早めに医療機関を受診しましょう。

骨盤臓器脱の原因について、詳しくは以下の記事でも解説しているので、あわせてご確認ください。

骨盤臓器脱の原因3選:出産や加齢で引き起こす? ※現在準備中です。

治療にはさまざまな方法がありますが、以下のような方に適しているのは、上記でも解説したフェミクッションです。

●ペッサリーが合わない
●体の中に異物を入れたくない
●持病などの影響で手術を受けられない
●手術に抵抗がある
●手術を受けたものの再発した
●定期的な通院が難しい

フェミクッションは、症状に合わせて自分で着脱できる医療機器です。

下着感覚で楽に履けるうえに、普通の下着のようなデザインにこだわっているため、誰かに見られても医療機器だと思われにくいでしょう。繰り返し洗って使用できるので、衛生面も安心できます。

また、ペッサリーのように体内へ直接挿入する必要がないぶん、出血やおりものの増加といった副作用が起こりにくいところもメリットです。骨盤臓器脱の治療を気軽に始めたいなら、まずはぜひフェミクッションをお試しください。

フェミクッションの有効性(臨床試験の結果から)

MRI画像は、骨盤臓器脱の患者様へフェミクッションを装着する前と、装着した後のものです。上から、(a) 膀胱瘤、 (b) 子宮脱、(c) 腸瘤と 直腸瘤、(d) 完全な外反 となります。

黄色の点線(半球状)がフェミクッションの位置です。すべての患者様において、フェミクッションの装着によって脱出臓器を高い位置に支え、骨盤臓器脱が改善されているのがわかります。

出典 Nomura Y, Yoshimura Y, et al: Magnetic resonance imaging evaluation of the effectiveness of FemiCushion in pelvic organ prolapse. J. Obstet. Gynaecol. Res., 48(5): 1255-1264, 2022

フェミクッションの有効性

 

この記事の監修医師

永尾 光一

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

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この記事の執筆者

三井 桂子

株式会社三井メディカルジャパン 代表取締役

三井 桂子

株式会社三井メディカルジャパン 代表取締役。日本における女性疾患についての認知や理解度の低さに危機感をおぼえ、医療機器開発に着手。子宮脱をはじめとする骨盤臓器脱の治療に用いる「フェミクッション」を開発し、三井メディカルジャパンを通じて発売。

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