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直腸瘤の治療まとめ-症状・原因・治療方法を解説

出産や妊娠、加齢によって骨盤底筋の力が弱くなり、本来骨盤内にある臓器を支えきれずに臓器が膣外へ出てきてしまう病気を総じて「骨盤臓器脱」といいます。

実に成人女性の3人に1人がかかると言われているほど身近な病気にもかかわらず、病気として認識せずに症状に苦しんでいたり、羞恥心から周りに相談もできず受診をためらったりするケースが多い病気でもあります。

骨盤臓器脱の1つである直腸瘤は、直腸が膣側へ膨らみ落ちてきてしまう疾患で、排便障害の原因の1つとされています。

本記事では、直腸瘤の症状や治療方法について解説しています。思い当たる症状がある方は、ぜひ医師の診察を受け、治療を検討してください。

直腸瘤(ちょくちょうりゅう)とは?症状や原因を解説

骨盤内にある臓器は、子宮や膀胱のほか直腸や小腸などがあり、骨盤底筋やじん帯がハンモックのように下から支えて骨盤内に保持しています。しかし、骨盤底筋が何らかの原因によって損傷し、支える力が弱くなることでこれらの臓器が膣から体外へ出てきてしまう疾患を、それぞれ子宮脱や膀胱脱などと呼んでいます。

直腸瘤は、本来骨盤内にある直腸が、腹圧がかかることなどにより膣内へ降りてきてしまう病気で、骨盤臓器脱の1つです。

直腸瘤が起こっている状態を、骨盤内の臓器の位置を確認しながら解説していきます。

直腸は、直立した人体を真横から見たときに、子宮よりも背中側にあります。膣から直結しているのが子宮、膣より背中側にある肛門から直結しているのが直腸といえばイメージしやすいでしょうか。

本来なら膣と壁を隔ててすぐ後ろに位置している直腸が、腹圧がかかることによって壁が弱くなり、膣のほうへ袋のように膨らみ、落ち込んでこぶ(=瘤)のような状態になります。これを直腸瘤と呼んでいます。

直腸瘤が起こると、直腸の前側が膣のほうへ向かって膨らみ、袋状になって落ち込みます。すると、直腸内にある便が袋状になったポケットに入り込んでしまい、腹圧をかけても排便することが困難になってしまうのです。

<原因>

原因

直腸瘤を含め骨盤臓器脱になる原因は、骨盤底筋やじん帯が損傷し、臓器を支える力が弱くなるためと考えられています。臓器を支える力が弱くなると、本来あるべき位置からずれが生じ、便秘や排尿障害などの症状があらわれます。

骨盤底筋やじん帯が損傷を受ける原因には以下のようなものが考えられます。

  • ・妊娠、出産
  • ・肥満
  • ・加齢
  • ・便秘
  • ・慢性的な咳など腹圧がかかる状態
  • ・立ち仕事

 

特に妊娠と出産は、骨盤底筋を大きく損傷する原因の1つで、

  • ・経腟分娩
  • ・難産
  • ・鉗子分娩
  • ・胎児が大きかった

などの場合には大きなリスクとなります。骨盤臓器脱になる方に経産婦が多いのはこのためです。

直腸瘤という疾患は、直腸自体に問題があるわけではありません。直腸の隣にある膣との間の壁が弱くなり、直腸を本来の位置に保持できなくなり、排便障害など様々な症状を引き起こす疾患です。

<症状>

直腸瘤の初期症状は便秘です。いきんでも便がでにくい、トイレに行ってもすっきりしないなどの排便障害があらわれますが、この時点で直腸瘤という病気かもしれないと思う方はまれです。そのため、ひどくなる便秘を抱えながら、原因がわからず放置してしまうケースが非常に多いのです。

直腸瘤の症状が進行すると、膣に指を入れて直腸を支えたり、下腹部を圧迫したりしていないと排便することが困難になってきます。有指排便と呼ばれる膣から指を入れて排便を助ける方法によって排便がしやすくなるのは、直腸瘤の特徴的な症状の1つです。

また、膣に異物感がある、息苦しさなどを感じるなどの場合もあり、排便以外にも日常生活の質を下げる要因となります。

▼直腸瘤以外の骨盤臓器脱については、こちらもご覧ください。
骨盤臓器脱(子宮脱・膀胱脱・膀胱瘤など)とは?
膀胱瘤・尿道瘤・小腸瘤・直腸瘤とは?骨盤臓器脱の症状・原因まとめ

 

直腸瘤の見分け方

直腸瘤は、触診と内診で診断ができます。正常な場合は、肛門から直腸壁を膣のほうへ押しても膣から膣壁がでてくることはありませんが、直腸と膣の間の壁が弱っていると膣壁が膣のほうへ出てきます。

また排便造影剤を使って、便のある位置を確認することでも診断することができます。場合によっては内視鏡を使った検査をすることもあります。

直腸瘤の治療方法

直腸瘤をはじめ骨盤臓器脱の治療には、保存的療法と手術療法があります。

保存的療法

保存的療法は、症状を緩和しながら痛みや症状をコントロールするもので、直腸瘤の場合は生活習慣の改善と、投薬による便秘の解消を行います。

生活習慣の改善では、以下のことを心がけ、便秘にならないように気を付けます。

  • ・適度な水分をとること
  • ・食物繊維の摂取を心がけること
  • ・強くいきむのを避けること(無理に排便しようとしない)
  • ・重いものを持たないこと(腹圧をかけない)
  • ・適度な運動をすること

投薬による治療は、坐薬や下剤を用いてスムーズな排便ができるよう、排便障害の解消を目的として行います。

また、肥満体質であったり、慢性的に咳をしていたりすると、腹圧がかかり症状を悪化させてしまいます。当てはまる場合は、ダイエットや治療を行い、腹圧がかからないように対処しましょう。

このほか、骨盤底筋を鍛えることも症状緩和に効果が期待できます。ウォーキングは適度な運動で肥満防止にもなり、骨盤臓器脱の治療に有効です。

直腸瘤の症状があってもウォーキングなどの軽い運動ができる保存的療法として、「フェミクッション」の使用がおすすめです。

▼フェミクッションについてはこちらをご覧ください。
フェミクッションとは?

手術的療法

保存的療法を行っても排便障害の症状が重い、または効果がない場合や、根治を目指す場合は手術をすることになります

直腸瘤の手術は、膣と直腸の間の壁を縫合して補強するもので、これにより直腸が膣のほうへ落ち込んでしまうのを防ぎます。

直腸瘤は排便障害の原因の1つと考えられていますが、排便障害があることによっていきむために、直腸瘤が悪化するとも言えます。そのため、痔などが原因で肛門が上手く拡がらがらない場合は、排便が困難になり直腸瘤も悪化していくケースがあります。

排便に出血を伴う場合や肛門の痛みがある場合は、腫瘍(癌)などが隠れている可能性もあります。便が出にくいことを放置せず、早めに医師の診察を受けましょう。

直腸瘤についてよくある質問

直腸瘤について、よくある質問をまとめました。

どんな人が直腸瘤になりやすい?

直腸瘤は、妊娠や出産を経験した更年期以降の女性や、子宮を全摘出している方に多く見られます。頻度は低いですが若年の女性が発症するケースもあります。

膣の異物感ってどんな感じ?

膣の異物感は、「膣にピンポン玉を挟んでいるように感じる」と表現される方が多いようです。これは直腸瘤が膣内に降りてきていることで感じる違和感です。

直腸瘤になることで心配される合併症は?

直腸瘤の人は、直腸粘膜脱や直腸重責など排便障害が起こる疾患や、痔などの肛門の疾患、子宮脱や膀胱脱などの他の骨盤臓器脱を併発しているケースが多く見られます。

直腸瘤の治療だけで済む方は全体の半分ほどで、ほとんどの場合は肛門科や婦人科など他の科と一緒に治療にあたることになります。

この記事の監修医師

永尾 光一

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

所属医療機関

この記事の執筆者

三井 桂子

株式会社三井メディカルジャパン 代表取締役

三井 桂子

株式会社三井メディカルジャパン 代表取締役。日本における女性疾患についての認知や理解度の低さに危機感をおぼえ、医療機器開発に着手。子宮脱をはじめとする骨盤臓器脱の治療に用いる「フェミクッション」を開発し、三井メディカルジャパンを通じて発売。

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