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骨盤臓器脱の3大原因:出産や加齢が引き起こす?

骨盤臓器脱は、骨盤内の臓器を支えている骨盤底筋がゆるんだり、傷ついたりすることで発症します。代表的な原因は、出産・加齢・慢性的な咳や便秘などによる腹圧です。

この記事では「そもそも骨盤臓器脱とは?」「原因や治療法が知りたい」と思っている方に向けて、骨盤臓器脱の基礎知識や主な原因、治療法を解説します。

骨盤臓器脱は放置していると悪化しかねません。この記事を読んで思い当たる節がある方は、早めに対策をするようにしましょう。

 

骨盤臓器脱とは

骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)とは、骨盤内におさまっている臓器がだんだん下垂してきて、膣口から脱出してしまう病気の総称です。膣のヘルニアとも呼ばれており、とくに高齢女性に多くみられます。

下垂・脱出する臓器の種類によって、子宮脱、膀胱(ぼうこう)瘤、直腸瘤、小腸瘤、膣脱とも呼ばれ、これらが単独または同時に発症します。

骨盤臓器脱とは

骨盤内の臓器は本来、じん帯や筋肉(骨盤底筋)によって支えられており、腹圧をかけても臓器が骨盤外に出ない構造です。しかし、それらが何らかの原因で傷ついたり緩んだりすることで、臓器を正常に支えられなくなり、骨盤臓器脱を引き起こしてしまいます。

骨盤臓器脱の主な症状は以下のとおりです。

  • ・下腹部や膣内で何かが下がってくる感じがする(下垂感)
  • ・陰部にピンポン玉のような丸いものを触れる
  • ・座ったときにボールの上に座っているような感覚がある
  • ・尿漏れ、尿が出にくい、尿が近い、残尿感
  • ・便秘、残便感

骨盤臓器脱は昔からある病気で、決して珍しい病気ではありません。骨盤臓器脱で悩んでいる人は全国に数百万人いると言われています。

ただ、上記のような自覚症状がありながら、「恥ずかしい」ことを理由に病院へ行かず、そのまま我慢している方が多いのが実情です。

 

骨盤臓器脱の原因①:出産による筋力の低下・緩み

骨盤臓器脱の中で最も多い原因は、出産です。帝王切開ではなく自然分娩が原因になりやすく、その中でも難産や多産を経験した方に多くみられます。

女性の骨盤の底には「産道(膣)」という出産するための穴があり、この穴をふさぐような構造で骨盤底筋が張られています。出産時は骨盤底筋が強く引き伸ばされるため、多かれ少なかれ損傷を受けてしまうのです。

骨盤臓器脱の原因①:出産による筋力の低下・緩み

とくに胎児の頭部が産道にある時間が長いほど、骨盤底筋への損傷が多いと言われています。ただ、出産後すぐに骨盤臓器脱を発症するケースもありますが、殆どは閉経を迎える50代頃に発症することが多いようです。

また、産婦人科領域の手術を受けた際も同様に、骨盤臓器脱につながるケースがあります。

 

骨盤臓器脱の原因②:加齢による女性ホルモンの減少

女性ホルモン(エストロゲン)には、骨盤底筋の機能を高める働きがあると考えられています。エストロゲンの分泌量は20~30代がピークです。閉経を迎える50代頃(更年期以降)に一気に低下するため、この頃から骨盤臓器脱を発症しやすくなります。

自然分娩を経験した方が、産後すぐではなく50代以降に骨盤臓器脱を発症しやすいのは、エストロゲンの減少が関係しています。

骨盤臓器脱の原因②:加齢による女性ホルモンの減少

 

骨盤臓器脱の原因③:咳や便秘などによる腹圧

以下のように、日常的に腹圧をかける習慣がある方は、骨盤臓器脱になりやすいと言われています。

  • ・ひどい咳やくしゃみをする
  • ・慢性的な便秘
  • ・肥満体型
  • ・重い荷物を持つ仕事
  • ・日常的な立ち仕事

例えばいつも便秘ぎみの人は、排便時にいきむ習慣で通常よりも腹圧がかかりやすく、骨盤臓器脱につながりやすいでしょう。喘息や花粉症など慢性的に咳やくしゃみをする人も、腹圧がかかるので注意しなければなりません。

また、肥満体型の人も骨盤底に負荷がかかることで骨盤臓器脱になりやすいため、バランスの良い食事や適度な運動を取り入れ、肥満を予防することが大事です。

その他、仕事で重い荷物を持ったり、長時間立ち仕事をしたりする方も、骨盤底への負担から骨盤臓器脱になるリスクが高まります。

 

骨盤臓器脱の治療

骨盤臓器脱は自然治癒する病気ではありません。放置していると症状が悪化し、生活の質を著しく低下させる可能性があります。そのため骨盤臓器脱の疑いがある場合は、早めに対策することをお薦めいたします。

骨盤臓器脱の治療法は、症状の程度によって分かれます。軽度の場合は保存的治療といって、骨盤底筋を鍛えたりフェミクッションなどのサポート下着の装着、その他、リングペッサリーという医療機器を膣内に挿入したりなど、手術せずに治療が可能です。重度の場合は保存的治療で改善できないことがあるので、手術が必要になります。

軽度の場合:保存的治療

【骨盤底筋訓練】
骨盤底筋を鍛えるトレーニングです。症状の進行を遅らせたり、排尿障害や排便障害を改善する効果があります。

お腹に力を入れないように注意しながら、「尿道・膣・肛門などを数秒間締める→力を抜く」を複数回繰り返す運動を、2~3ヶ月くらい毎日行います。立っていても横になった状態でも大丈夫です。

【ペッサリー】
脱出した臓器を、ペッサリーという医療器具を使用して、人工的に膣内におさめる方法です。医師による定期交換と、自己着脱する方法の2種類に分かれます。

医師による定期交換の場合、自分で管理する手間は省けますが、2~3ヶ月ごとの定期的な通院が必要です。また、長時間付けたままの状態が続くため、膣内の粘膜に負担がかかりやすく、炎症を起こしたりおりものが増えたりといったトラブルを生じることがあります。

自己着脱の場合は、装着しない時間を設けることで上記のようなトラブルを軽減可能です。自分で装着するのは怖いイメージがありますが、指導を受けたうえで行えば、そこまで難しくはありません。医師による定期交換に比べて通院回数が少なく済みます。

【フェミクッション】
フェミクッションは、すべての骨盤臓器脱に使用できる医療機器(サポート下着)です。脱出した臓器が膣内に戻っている状態で膣口をクッションで抑え、ホルダーとサポーターで押し上げることで脱出を防ぎます。(尿漏れのある方にも対応しています。)

重度の場合:手術

症状が進行している場合や、骨盤臓器脱を根本的に治療したいときは手術を行います。

手術にはさまざまな方法があります。
「経腟メッシュ手術(TVM)」は、メッシュという網目状の人工素材を用いて、臓器をハンモックのように支えて補強する方法です。欧米では禁止となった術式ですが、日本では安全に行なわれています。

「腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC:Laparoscopic Sacrocolpopexy)」は、腹腔鏡を用いて経腹的に前後膣壁にメッシュを固定し膣を引き上げて仙骨に固定する方法で、 「ロボット支援下仙骨膣固定術:RSC:Robot-assisted sacrocolpopexy)は、腹腔鏡に代わりにダビンチ等のロボットを使用します。

また、子宮脱の場合は脱出している子宮を摘出し、摘出後に膣が下垂することを防ぐため、膣の一番上の部分を骨盤のじん帯に縫い留める手術(膣式子宮全摘、腟断端固定術)。その他、下垂している腟を縫合して閉鎖する「腟閉鎖術」などがあります。

【腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)】
ゆるんだ骨盤底筋を、メッシュで補強する手術です。腹部に1cm程度の穴を4ヶ所あけ、内視鏡や器械を使って行います。

手術時間は長めですが、メッシュを使用することで術後の再発率が低く、あける穴が小さいので出血はほとんどありません。膣を切開して縫い留めることはしないため、性生活へ与える影響も少ないと言われています。

【ロボット支援下仙骨膣固定術(RSC)】
骨盤臓器脱に対して、ロボット支援のもと行う仙骨膣固定術です。ロボット支援の手術とは、医師がロボットを操作しながら行う低侵襲手術(内視鏡下手術)を指します。

仙骨腟固定術は、骨盤内でミリ単位の繊細な縫合を多く行なわなければならないため、非常に難しい手術です。しかしロボット支援手術なら、人の手よりも関節が自由に動くため、狭い空間で繊細な作業を可能とします。手ブレ防止・3Dカメラによる視野拡大機能も搭載されており、より安全な手術を行えるのがメリットです。

 

まとめ

骨盤臓器脱は、膣内にある臓器(子宮・膀胱・尿道・直腸・小腸など)が膣壁を介して下垂・脱出する病気です。出産・加齢による女性ホルモンの減少・慢性的な咳や便秘による腹圧などが原因で起こります。

骨盤臓器脱の具体的な症状について、詳しくは以下の記事でも解説しているので、あわせて参考にしてください。

>>骨盤臓器脱の主な症状:当てはまったら要注意!

骨盤臓器脱は放置して治る病気ではないため、疑いがある方は早めに医療機関を受診するなど対策を取ることが重要です。

もし「体内に異物を入れたくない」「定期的な通院が難しい」「手術はしたくない」という方は、上記で紹介したフェミクッションによる治療が向いています。

フェミクッションは、骨盤臓器脱で悩む多くの患者様の期待と共に誕生した、新しい医療機器です。やわらかなクッションが臓器をやさしく受け止め、臓器を体内におさめる仕様です。痛みや出血が抑えられ、普通の日常生活を送れるでしょう。症状の進行も抑えることができます。

また、ペッサリーのように体内へ挿入するものではないため、臓器や膣粘膜に負担がかかりにくいところがメリット。自分で簡単に着脱できるうえに、普通の下着のようなデザインにこだわっているので、誰かに見られても医療機器だと思われにくく病気と気付かれにくいのが魅力です。ぜひ試してみてはいかがでしょうか。

この記事の監修医師

永尾 光一

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

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この記事の執筆者

三井 桂子

株式会社三井メディカルジャパン 代表取締役

三井 桂子

株式会社三井メディカルジャパン 代表取締役。日本における女性疾患についての認知や理解度の低さに危機感をおぼえ、医療機器開発に着手。子宮脱をはじめとする骨盤臓器脱の治療に用いる「フェミクッション」を開発し、三井メディカルジャパンを通じて発売。

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