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骨盤臓器脱 (子宮脱・性器脱) の手術、リスクやデメリットはある?
骨盤臓器脱(子宮脱・膀胱瘤など)とは、膣のヘルニアなどとも呼ばれ、子宮・膀胱・尿道・小腸・直腸などが、女性器(膣)に下垂し膣外に出てきてしまう病気です。別名「性器脱」、「膣脱」ともいわれ、古には「なすび」と云われた疾患です。
骨盤内臓器(子宮、膀胱、直腸)は、筋肉、靭帯、筋膜で構成された骨盤底筋によって支えられています。骨盤臓器脱は、それらの組織が弱くなり、膣から骨盤内臓器が1つまたは複数出てきてしまう病気です。
出てくる臓器によって、子宮脱・膀胱瘤・尿道瘤・小腸瘤・直腸瘤と呼ばれていて骨盤臓器脱(子宮脱・膀胱瘤など)とはその総称です。それらを総称して骨盤臓器脱といいます。
海外ではPelvic Organ Prolapse (POP)の名称を用いられ、日本でも骨盤臓器脱(子宮脱・膀胱瘤など)という名称が使われるようになりました。
最初は膣から何かが落ちてくるだけですが、進行すると排尿困難や排便困難、性機能障害なども起こるようになります。痛みや出血のため、歩行困難になるなど、著しくQOL(生活の質)を低下させます。
また、恥ずかしさから病院にも行けず、家族や知人にも言えず、人知れず悩んでしまう病気でもあります。
骨盤臓器脱の根治治療は手術になります。手術にはいくつかの方法があり、患者様の症状や年齢、体力などから、適切な手術方法を医師が判断します。
持病や合併症などある人は手術が出来ないこともあり、その場合は温存療法が有効が選択されます。しかし、近隣に病院がない場合、あるいは専門医が近くにいないなどの理由で、受診できない方も多いのが現状です。
まずは自分でできる温存療法を取り入れてみることが、症状を進行させず、日ごろの生活を難なく送る近道です。
術式 | 概要 | メリット | デメリット | 手術時間 | 費用 |
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子宮摘出術 | 下がってきた子宮を摘出する方法 | 子宮がんや子宮筋腫のリスクはなくなる | 妊娠できなくなる | 282,100円 | |
膣縫縮術 | 弱っている膣の壁(筋膜)を縫い縮める方法 | 簡便に行える | 痛んだ組織で形成しているため、再発のリスクがある | 腟壁形成手術:78,800円 腟断端挙上術(腟式、腹式):291,900円 |
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従来法 (上記2つを同時に行う) |
子宮摘出後に膣壁を縫い縮める方法 (婦人科で最も多く行われている) |
婦人科で最も多く行われていて、低侵襲である | 痛んだ組織で形成しているため、再発のリスクがある | ||
経膣メッシュ手術(TVM) | 弱っている膣の壁をシート状のメッシュで補強する方法 (授産の可能性がある場合は行わない) |
・経腟的に手術をするため開腹せず患者の負担が少ない ・再発のリスクが低い |
日本では安全に行われているが、合併症や後遺症が問題となり、現在海外では禁止されている(注) | 30分~2時間30分 | 膀胱脱手術: 【1】メッシュを使用するもの:308,800円 【2】その他のもの:232,600円 |
膣の閉鎖 | 膣の前と後ろの壁を縫い合わせて、臓器が落ちないようにする方法 寝たきりの人を対象とし健常者には行わない |
・短時間で手術が可能 | 性交ができなくなる | 腟閉鎖術: 【1】中央腟閉鎖術(子宮全脱):74,100円 【2】その他:25,800円 |
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腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC) | おなかに数カ所の小さな穴を開ける腹腔鏡下にて、骨盤臓器脱によって下垂した膣を、メッシュを用いて仙骨へ固定する方法 (授産の可能性のある若い人にも行える) |
・入院期間が短い ・術後の痛みが軽い ・癒着が少ない ・再発率が最も低い |
・子宮摘出を行う ・手術費用が高い ・実施施設が少ない |
60分~4時間 |
(注)2019年4月16日 FDAは骨盤臓器脱に対する経腟メッシュ手術に使用する外科用メッシュの2社3製品に対し製造と販売を中止
古くから婦人科で行われている手術で、膣から出てきている子宮を摘出し、前と後ろの膣の壁を切り取り、縫い縮める方法です。痛んだ組織を縫い合わせるため、将来的に膣の壁が緩んできて、膀胱や直腸、小腸などが出てきて再発となるケースも高いです。
経腟メッシュ手術(TVM)とは、英語のTenshion-free Vaginal Meshの略で、膣壁にメッシュでテンションが掛からないように、緩んだ筋肉の変わりに補強してあげようという手術です。
この手術は、2000年にフランスのコッソン先生によって開発され、2004年に竹山先生や島田先生によって初めて行われました。その後、日本でも普及するようになりました。
しかし、メッシュ露出、感染、びらん、疼痛、再発などの問題もあり、FDA(米国医薬食品局)は、2008年と2011年に2度の注意喚起を出し、2019年4月には2社3製品について、完全撤退するよう命じました。これを受け、現在はアメリカを始め殆どの国で禁止となっています。
本邦では、日本製のORIHIMEというメッシュで、現在も安全に手術が行われています。
腹腔鏡下仙骨膣固定術とは、腹腔鏡下でメッシュを用い、子宮頚部と仙骨(お尻の骨)に固定するという手術です。Laparoscopic Sacrocolpopexyという英語の略で、LSCとも呼ばれています。
多くの病院がTVMから撤退して行く中、LSCは現在ではスタンダードとなりつつあります。
再発については少ないとされていますが、文献により様々です。合併症については、感染などが挙げられます。
LSCは、お腹から膣を持ち上げるため、膣の奥行も確保でき、膣にメッシュを入れないことから、性交時の違和感も少なく性機能が温存できます。若い人でも受けることができる手術です。
しかし、一部のエキスパートの医師は2時間以内で手術が可能ですが、通常は3時間(6時間かかる場合もある)程度かかるため、術中は身体への負担も少なくはありません。
高齢で寝たきりや、ご主人がいないなどの理由で性交渉のない場合は、鉛筆が一本入るくらいの隙間を残し、膣を閉鎖します。しかし、会陰部全体が下がってきて、臓器は出ないまでも下垂感を感じたりと、再発する方も少なくはありません。基本的には健常者には行われない手術です。
手術には様々な方法があります。それぞれについては、メリットやデメリットがあります。再発や合併症などのリスクも考慮し、その方に一番合った手術方法が選択されます。
また、心臓病や糖尿病などの持病のため、手術を受けられない方も多くいらっしゃいます。その場合は、リングペッサリーの装着や、フェミクッション(サポート下着)などの温存療法(保存的治療)が選択されます。
子宮脱の始まりは、子宮が膣内に下垂することから始まります。この頃は、下腹部に違和感を感じたり、下腹部痛として症状が現れる場合もあります。医療機関を受診しても、この時点では手術とはなりません。
ただ、痛みや違和感のため、生活に支障が出ている場合は、フェミクッションを利用される事をお薦めいたします。フェミクッションを使用することにより、弱ってしまった骨盤底筋をしっかりサポートし、痛みや違和感の緩和、子宮脱症状の悪化を防ぐことができます。
骨盤臓器脱を放置すると、血液の流れが悪くなり、うっ血や血流障害が起きてしまいます。そのため、なんらかの方法で治療が必要となります。しかし、手術を直ぐに選択できない場合もあるので、その場合は、温存療法(保存的治療)が有効です。
リングペッサリーと言って、輪っか状のものを膣内にいれ、臓器が下がってこないようにする方法で、最も良く行われています。簡便ですが、定期的に交換するため、受診が必要です。
また、違和感、出血、びらん、肉芽、感染などの理由で外す場合も多くあります。階段を上る時や、腹圧がかかった瞬間に落ちやすくなるといったこともあります。
最近では、自己脱着を推奨している医療機関も増えてきました。膣に触れることができない、指先に力が入らないなどの理由で、自己脱着を行えない方も少なくはありません。
フェミクッションは患者さんご自身で簡単に脱着でき、簡便にお使いいただける治療具です。骨盤臓器脱の辛い症状から、とにかく早く解放されたいという方にお薦めの方法です。
専門医を探しているがどこを受診していいかわからない、手術をしたいが持病でできない、リングペッサリーで不具合があるなど、様々な理由で、痛みや出血などの辛い症状を日々感じている方も多くいらっしゃいます。
フェミクッションは、手術とは異なり根治治療ではありませんが、履けば直ぐに違和感から解放され、通常の日常生活を取り戻していただけます。
また、リングペッサリーのように体内に挿入するものではなく、腹圧の高い日中のみ使用し、夜は必要ありません。洗って衛生的に使うことができ、感染や合併症など、リスクの心配の少ない治療方法です。
最近では、手術の前後にフェミクッションを使う先生も増えています。術前に使用することにより、リングペッサリーで痛んだ膣の状態を良くします。術後に使用することにより、再発予防となります。
フェミクッションは、既に十数年の実績があります。この間、全国の多くの先生からお問合せをいただきました。実際にフェミクッションを診療に使われている医療機関、外来にサンプルが置いてある医療機関など様々ですが、これまでに情報提供させていただいております医療機関をご紹介しております。(先生の移動など当時と状況が変わっている場合もありますがご了承ください)
https://urogyne.jp/medical_institution/
参考文献
・加藤久美子,鈴木省治:腹圧性尿失禁・骨盤臓器脱の症状診断とメッシュ手術の動き.日本医事新報,4456:49-55, 2009.
・加藤久美子編:別冊きょうの健康「女性の尿トラブル」,2010刊行
・Paulo Palma et al 2016;35:44-47
・永尾光一