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産後の子宮脱は治る?産後に腹部や子宮に違和感を感じたら

「産後に陰部が開いている」「下腹部に違和感がある」などと不安になっていませんか? 産後には骨盤底筋という、骨盤内の臓器を支えている筋肉群がゆるんでおり、「陰部が開いている」と不安になる人は少なくありません。

陰部が開いているのは、子宮脱という骨盤臓器脱の可能性があります。この記事では、多くの女性が悩む「産後の子宮脱」について、症状や原因、治療法を説明していきます。放置していると進行していきますので、この記事を参考に進行を防ぐことや受診、治療をご検討ください。

子宮脱とは?

子宮脱とは、子宮が女性器(膣)に下垂し膣外に出てきてしまう病気です。その原因は様々ですが、特に妊娠や出産が大きなリスクとなっています。
子宮脱に関して詳しくは「子宮脱、自分で治す・戻すことは可能?」をご覧ください。

子宮脱の症状

一般的に「子宮が下がってくる感覚がある」「座ると何かが触る感覚がして気持ち悪い」などの自覚症状から始まります。症状がひどくなってくると、尿失禁や痛み、出血が発生することもあります。
子宮脱の症状に関して詳しくは「子宮や膀胱が下がる感覚がする・下がっている…疑うべき病気とは?」をご覧ください。

子宮脱の原因

子宮脱の原因は、骨盤底筋のゆるみや損傷です。骨盤底筋とは、子宮・膀胱・直腸といった臓器を支える機能がありますが、なんらかの原因でこの骨盤底筋がゆるんだり傷ついたりすると、臓器を支えきれなくなり下垂してしまいます。

骨盤底筋のゆるみ・損傷の原因は複数あり、主なものは以下のとおりです。

  • ●出産(自然分娩や難産、多産)
    ●加齢・閉経
    ●肥満
    ●慢性的な便秘で排便時にいきむ習慣
    ●虚弱体質
    ●慢性的な咳(気管支炎や喘息)
    ●長時間の立ち仕事
    ●重い物を持つ仕事
    ●骨盤内の手術経験

 

最も多い原因は出産です。自然分娩の回数が多い方や高齢出産の方が子宮脱になりやすいと言われています。分娩後にすぐ子宮脱になることは少なく、閉経を迎える50~60代以降に症状が現れる方が多いようです。ただ、稀に産後すぐに子宮脱になることもあります。

なぜ閉経時に発症する方が多いのかというと、閉経すると女性ホルモンが減少し、骨盤底筋を支える機能が低下するからです。

肥満・便秘・慢性的な咳や、日常的な立ち仕事、重い荷物を持つ仕事は、腹圧がかかりやすく子宮脱を招きかねません。また、骨盤内の外科手術を受けた経験がある方は、骨盤底筋に少なからずダメージを受けており、加齢に伴い支える力が弱まることで、子宮脱になりやすくなるのです。

妊娠・出産がリスクである理由

子宮脱のリスクは何と言っても、妊娠と出産です。
妊娠中は、赤ちゃんが大きくなるにつれて腹圧も高まり、出産までの間、慢性的に骨盤底筋に負荷がかかります。
出産時には、大きな赤ちゃんが狭い産道を通るので、骨盤底筋を劣化させてしまいます。また、3500グラム以上の大きな赤ちゃんの出産や、赤ちゃんがなかなか産道を通ることができず出産に時間がかかってしまう場合、吸引分娩や鉗子分娩で赤ちゃんと一緒に子宮が出てきてしまう場合や、高齢出産や妊娠中の喫煙なども子宮脱のリスクとされています。

出産後、どれくらいで症状がでることが多い?

多くは、閉経を迎える50歳以降に症状が出ますが、産後直ぐに子宮脱になる場合もあります。

妊娠はできる?

子宮脱になると、性交時に違和感を伴うことも多くなりますが、妊娠は可能です。挙児を希望する場合は、手術ではなく、フェミクッションを使いながら治療をすることも一つの方法です。特に若年者でフェミクッションを使った場合は、数カ月間の使用で落ちなくなるケースが多く見受けられます。また、日中フェミクッションを着用することにより、違和感なくスムースに性交を行うことができます。

出産後に気をつけるべきこと

分娩中に赤ちゃんが産道に留まることなく、スムースに出てこられることが好ましいと考えられますが、なかなか自分でコントロールできるものでもありません。
出産後は、しっかり骨盤底筋体操をし、緩んでしまった筋肉を引き締めるようにしましょう。そして、もしも下腹部に違和感を感じたり、子宮脱になってしまった場合には、進行することのないよう、フェミクッションなどを早期に導入するようにしてください。

子宮脱の治療・予防方法

【予防方法】
子宮脱は骨盤底筋のゆるみが原因なので、骨盤底筋訓練(膣や肛門をしめる運動)を継続的に行うことで予防が可能です。また、肥満や慢性的な便秘も原因のひとつなので、バランスのよい食事・水分をこまめにとる・適度な運動などを日常生活に取り入れて、肥満や便秘の予防・改善に取り組みましょう。

【治療方法】
軽度の場合は上記で紹介した骨盤底筋訓練を行うことで、症状が緩和されることがあります。子宮の一部や全部が脱出している場合は、主に以下の治療を行います。

・ペッサリー
膣内にペッサリーという器具を挿入して、子宮の出口にはめ込むことで、子宮の脱出を防ぎます。長期間装着していると、炎症によりおりものが増えて出血することがあるので、定期的に医療機関を受診のうえ交換しなければなりません。

・フェミクッション
脱出した臓器が膣内に戻っている状態で膣口をクッションで押さえ、ホルダーとサポーターで押し上げることで脱出を防ぎます。下着感覚で着用でき、繰り返し洗って使えるのが特徴です。

・手術療法
重度の場合や、子宮脱を根本的に解消したい方は手術が必要です。

メッシュという網目状の人工素材で膣壁を補強する「経腟メッシュ手術(TVM)」や、脱出した子宮を膣から切除してゆるんだ部分を縫い留める手術、膣を閉鎖する手術、腹腔鏡手術を使用したLSC手術やロボットを使ったRSC手術など、などさまざまな選択肢があります。

フェミクッションが有用な理由

フェミクッション 骨盤ベルト
圧迫の方向
圧迫の方向 下から上への圧迫(吊り上げ) 横方向の圧迫
圧迫する臓器
圧迫する臓器 脱出した骨盤臓器 骨盤の骨
圧迫するメカニズム
圧迫するメカニズム ①膣内までクッションで優しく持ち上げる
①膣内までクッションで優しく持ち上げる
②縦ベルトによる吊り上げ
②縦ベルトによる吊り上げ
骨盤臓器に対する圧迫効果なし
骨盤臓器に対する圧迫効果なし
骨盤臓器脱に対する
効果
骨盤臓器脱に対する
効果
有用 無効(骨や靭帯の可動性は出産直後でも1cm未満のため)
※腹部に巻くと腹圧が高まり悪化する
骨盤臓器脱による
排尿障害に対する効果
骨盤臓器脱による
排尿障害に対する効果
有用 無効(上記理由による)
※腹部に巻くと腹圧が高まり悪化する
骨盤臓器脱による
排便障害に対する効果
骨盤臓器脱による
排便障害に対する効果
有用 無効(上記理由による)
※腹部に巻くと腹圧が高まり悪化する
国の認定
国の認定 医療機器 雑品
※効能効果を謳うことこはできない
骨盤臓器脱や尿失禁の効果があると言って
売られている商品があるのでご注意ください

フェミクッションの臨床試験の結果からみる有効性

下のMRI画像は、骨盤臓器脱の患者様へフェミクッションを装着する前と、装着した後のものです。上から、(a) 膀胱瘤、 (b) 子宮脱、(c) 腸瘤と 直腸瘤、(d) 完全な外反 となります。フェミクッションは、子宮脱を含むすべての骨盤臓器脱に使用できる下着のような医療機器です。

黄色の点線(半球状)がフェミクッションの位置です。すべての患者様において、フェミクッションの装着によって脱出臓器を高い位置に支え、骨盤臓器脱が改善されているのがわかります。

出典 Nomura Y, Yoshimura Y, et al: Magnetic resonance imaging evaluation of the effectiveness of FemiCushion in pelvic organ prolapse. J. Obstet. Gynaecol. Res., 48(5): 1255-1264, 2022

フェミクッションの有効性

よくある質問

産後の子宮脱は治る?産後に腹部や子宮に違和感を感じたら

Q:どうして出産で子宮脱になるの?

A:大きな赤ちゃんが狭い産道を通るので、骨盤底筋を劣化させてしまいます。また、3,500グラム以上の大きな赤ちゃんの出産や、赤ちゃんがなかなか産道を通ることができず出産に時間がかかってしまう場合、吸引分娩や鉗子分娩で赤ちゃんと一緒に子宮が出てきてしまう場合や、高齢出産や妊娠中の喫煙なども子宮脱のリスクとされています。

Q:子宮脱かどうか分からない…診療を受ける場合はどこに行けば良い?

A:子宮脱の検査は婦人科を受診します。膀胱瘤なども併発している場合も多いため、最近では女性泌尿器科などでも診察を行っています。予め医療機関に問合せをするか、ネットで調べるなどして、骨盤臓器脱の治療を行っているか確認してから受診されることをお薦めいたします。

Q:子宮脱になったら必ず治療を受けないとダメ?

A:軽度の子宮脱は治療を必要としませんが、子宮脱により不快感が生じたり、通常の生活が妨げられたりした場合は、治療をする必要があります。
軽症であれば、フェミクッションで改善すことができます。

Q:子宮脱を放っておくとどうなる?

A:子宮脱は放置しても自然に治るものではないため、症状がそのまま持続するか悪化します。ただ、一般的には命に関わることはありません。症状が進行すると歩行困難や排尿・排便困難・外出の制限など、日常生活に支障をきたすことがあるため、放置せず早めに医療機関を受診するのがおすすめです。

Q:子宮脱の予防方法はある?

A:定期的な運動をする、健康的な体重を維持する、骨盤底筋体操の練習、慢性便秘や咳などの治療などが主な予防方法として挙げられます。
日頃から出来るもの、初期の子宮脱の方には骨盤底筋体操で骨盤の筋肉を鍛えます。骨盤底筋体操はケーゲル体操とも呼ばれます。
下垂感等がある場合は、フェミクッションを使用することにより、進行を防ぐことができます。

Q:子宮脱になった後は妊娠できない?

A:子宮脱になると、性交時に違和感を伴うことも多くなりますが、妊娠は可能です。第一子の出産後に子宮脱になってしまうと、第二子妊娠中に子宮脱になる場合があります。挙児を希望する場合は、手術ではなく、フェミクッションを使いながら治療をすることも一つの方法です。

Q:産後の子宮脱はどれくらいで治る?

A:産後すぐの子宮脱の場合、1~2ヶ月程度で軽快することが多いようです。しかし、ひどく脱出してしまったり、一度軽快した症状が再発した際には、保存的治療法手術が必要なこともあるので、病院で相談することをお勧めいたします。

この記事の監修医師

永尾 光一

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

所属医療機関

この記事の執筆者

三井 桂子

株式会社三井メディカルジャパン 代表取締役

三井 桂子

株式会社三井メディカルジャパン 代表取締役。日本における女性疾患についての認知や理解度の低さに危機感をおぼえ、医療機器開発に着手。子宮脱をはじめとする骨盤臓器脱の治療に用いる「フェミクッション」を開発し、三井メディカルジャパンを通じて発売。

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